6. Tomato disease(Ne)
6. Tomato disease(En)
トマト病害に関する総合解説
はじめに:トマト病害の重要性と基本概念
トマトは世界中で栽培される重要な作物であるが、多種多様な病害に非常に弱い。これらの病害は収量や品質の低下をもたらし、作物の経済的損失を引き起こすため、適切な管理が不可欠である。本章では、トマトに発生する主要なウイルス病、細菌病、糸状菌病、およびそれらに対する防除法を体系的に解説する。さらに、化学的防除に加え、物理的防除や生物的防除といった統合的病害管理(IPM)の最新技術も紹介する。
本章での重要な用語には、トマトモザイクウイルス(TMV)、トマト黄化えそウイルス(TSWV)、青枯病、葉かび病、灰色かび病、および**統合的病害管理(IPM)**などが含まれる。
1. トマトにおける主なウイルス病とその管理
- トマトモザイクウイルス(TMV)は、タバコの使用や感染した種子・苗の移植によって拡散するため、健康な種子・苗の使用や感染苗の除去・破棄が重要。
- 種子の消毒には10%三ナトリウムオルソリン酸溶液に10~20分間浸漬が推奨される。
- **トマト黄化えそウイルス(TSWV)は、植物の葉に青銅色の斑点や葉の巻き込み、果実に淡い赤・黄色のリング状斑点を生じ、重症例では生育阻害や枯死を引き起こす。媒介はスリップス(thrips)**であり、雑草がウイルスの貯蔵体となるため雑草管理も重要である。
- 他のウイルスとしては、**CMV(キュウリモザイクウイルス)やPVX(トマト斑点ウイルス)**がある。
- 防除策としては、耐病・耐虫品種の栽培、繰り返しの殺虫剤散布、トウモロコシの防風林的利用、アルミシートや灰白色のマルチングの使用、および雑草除去が効果的である。
2. 細菌性病害:トマトかいよう病と青枯病
- トマトかいよう病と青枯病はClavibacter michiganensis pv. michiganensisが原因で、種子伝染するため無病種子・苗の使用、耐病性品種の栽培が基本。
- 土壌殺菌、3年にわたる輪作、雑草管理、早朝灌水による葉の湿度低減、苗のストレプトサイクリン溶液(100ppm、30分)浸漬、漂白粉の散布(15kg/ha)、点滴灌水などの衛生管理も推奨される。
- 青枯病はRalstonia solanacearumによるもので、世界的に夏季に深刻。感染植物は生育阻害、葉の黄化、急激な萎凋、枯死を起こし、維管束に細菌が詰まることで水分輸送が妨げられる。
- この病気への効果的対策は、接木の高接木技術であり、根株で病原菌の増殖を抑制し、発病を遅らせることができる。
3. 糸状菌による主な病害と管理方法
- トマト葉かび病(Passalora fulva)は湿潤な環境下で急速に蔓延し、葉に黄緑色・オリーブ色の斑点を作り、落葉や果実の腐敗を引き起こす。防除には耐病性品種の利用、わき芽除去、過剰灌水・密植の回避、適切な換気、**早期の薬剤散布(葉裏重点)**が有効。
- すすかび病、**灰色かび病(Botrytis cinerea)**も同様の環境条件で発生し、同様の防除対策が推奨される。
- **白かび病**は効果的な化学的治療法がなく、果実の割れや生理障害の防止、感染果実の速やかな除去が重要。
- 疫病(Late blight)はジャガイモと同一の病原体による全地上部感染症で、葉・茎の壊死、果実腐敗を引き起こす。冷涼多湿条件で発生しやすい。防除は輪作・休閑地の活用、トマトの自生株の除去、無病苗の使用、病残渣の破棄、適切な殺菌剤の使用である。
- **半身萎凋病**は土壌中に病原菌が生存し、22~25℃の条件下で激発。水や器具、感染苗を介して拡散。防除は土壌消毒や耐病品種の利用が基本。
- **萎凋病(Fusarium wilt)**も土壌伝染性で、連作回避、健康苗の使用、耐病品種・根株の利用、土壌消毒が有効。
4. 統合的病害管理(IPM)と環境にやさしい防除技術
- トマトは病害に弱く、加えて害虫の被害も大きいため、単一の防除方法では限界がある。そこで**統合的病害管理(IPM)**が推奨される。
- IPMでは、耐病性品種の利用、高接木技術、土壌減毒殺菌による物理的防除、生物的防除など多角的な手法を組み合わせる。
- 物理的方法としては、害虫侵入防止のための細かい網目(約1mm)の防虫ネットが用いられるが、換気が悪くなり他病害リスクが増加することもある。
- 近年、近畿大学が開発した静電気スクリーンは、約5mmの間隔の電気を帯びたワイヤーでスリップスなどの小害虫をトラップしながら換気を確保する革新的技術である。
- 生物的防除は、益虫や微生物を利用して病害虫を抑制する方法である。例として、昆虫寄生性菌のBeauveria bassianaがダニやスリップスに効果的に用いられている。
- また、バチルス属細菌は植物表面をコロニー化し、葉かび病やうどんこ病の防除に役立つ。これらはミツバチなどの益虫に安全であり、早期適用が望ましいが、圧力が高い場合は化学農薬との併用も検討される。
5. まとめと今後の展望
トマトの病害管理は多岐にわたり、ウイルス、細菌、糸状菌の複合的な脅威に対応する必要がある。種子・苗の健康管理、耐病性品種の選択、適切な環境管理、化学的・物理的・生物的防除の組み合わせが成功の鍵である。
特に、高接木技術と静電気スクリーンのような新技術は、従来の防除法に対する有効な補完手段となっており、将来的な持続可能なトマト栽培において重要な役割を果たすと期待される。
本章で紹介した防除策を体系的に活用することで、病害被害の軽減と安定収量の確保が可能となり、環境負荷の低減にも寄与するだろう。
重要ポイントの再整理
- **トマトモザイクウイルス(TMV)やトマト黄化えそウイルス(TSWV)**は種子・苗の管理と媒介害虫の防除が重要。
- トマトかいよう病と萎凋病は無病苗使用、土壌管理、接木技術が有効。
- 葉かび病、灰色かび病、疫病などの糸状菌病は環境管理と早期防除が中心。
- **統合的病害管理(IPM)**により、耐病性品種、物理的防除、生物的防除を組み合わせて持続可能な防除を実現。
- 静電気スクリーンやB. bassianaなどの革新的技術の導入で、化学農薬依存を減らしつつ、効果的な防除が可能となっている。
このように、トマト病害の包括的理解と多角的防除戦略の実践が、現代農業におけるトマト栽培の成功に不可欠である。
