2026Raji01

Raji Krow整備計画(案)

1. 計画の背景と目的

1-1. Sankhu(サクー)の概要

Sankhu(サクー)はネパールの首都カトマンズから東へ約17kmに位置するShankharapur Municipality(人口29,318人・2021年)の中核集落である。標高1,350~1,400m、サリナディ川の扇状地に形成されたネワール文化の歴史的集落であり、「クロ(Kuro:水路)のあるムラ」と称されるように、古来より用水路が集落と農業の根幹を成してきた。

7世紀頃に創基されたとされるSankhuは、かつてカトマンズからチベット・ラサへの街道の要衝として栄えた。タントリズムの設計思想に基づいて建設された集落には、バジュラヨギニ寺等の宗教施設、トールごとのガイチ(水場)、複数の貯水池が整然と配置され、「サクミダーバシ(サクーの人の自慢は水路)」と謳われた用水路文化を育んできた。

1-2. Raji Krow(王の水路)の概要と現状

【水路ネットワークの規模(KMZデータ解析結果)】

水路総延長:53.0 km うちRaji Krow(RK)本線・支線系:23.8 km

幹線水路(RK1~RK6):7.4 km  二次幹線:8.8 km  末端支線:7.6 km

主要幹線RK1:3,639 m(取水口 EL 1,463m → 末端 EL 約1,350m)

支線総数:RK1系 130本以上、RK4系 12本以上(計142本以上)

取水源:サリナディ川(サリナディ寺上流の堰堤)

灌漑受益面積:約300 ha(水田・畑地)

サリナディ川の湾曲部に設けられた堰堤から取水され、等高線1,400m付近を南西方向に流れる幹線(RK1:3.6km)から複数の幹線(RK2~RK6)・支線・末端水路へと分岐する重力式自然流下システムである。カトマンズ王朝時代の避暑地を支えた歴史的灌漑施設としてRaji Krow(王の水路)と称されてきた。

しかし近年、以下の複合的要因により用水路の存在価値が大きく損なわれている。

  • 産業・社会構造の変化:農業従事者の減少(1990年代の就業74.5%農業から大幅低下)、都市化の進行、水道・下水道整備による生活用水としての用水路利用の消滅
  • 施設の劣化・消失:都市部区間の石蓋設置・埋設化、漏水(ひび割れ、シルト土壌部、水口部からの常時漏水)、小河川交差部の繰り返し崩壊
  • 管理体制の崩壊:Water Users’ Committee等の用水路管理組織が機能せず、農家による勝手な末端水路の切り替え、ゴミ投棄・排水路化
  • 行政の財源不足:Shankharapur Municipalityの財政基盤が脆弱で維持管理費の確保が困難
  • 水質悪化:貯水池の緑色溜水化、生活排水の流入、農薬・肥料成分の混入

1-3. 計画の目的

本計画は、日本の「地域用水」の概念(農業用水・生活用水・排水・景観・環境・地下水涵養の多目的一体管理)を基本思想とし、金沢・郡上八幡の事例を参考としながら、Sankhu固有の自然・歴史・文化・社会条件に適合したRaji Krow整備計画を策定するものである。

単なる農業水利施設の改修にとどまらず、水路を地域コミュニティの公共財として位置付け直し、農業生産性の向上・景観の回復・防災機能の強化・環境教育・観光資源化・地下水保全を総合的に実現することを目指す。

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